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京都地方裁判所 昭和50年(ヲ)150号 決定

申立人 矢野芳一

右代理人弁護士 中島晃

相手方 村端義夫

主文

京都地方裁判所所属執行官小林基郎が、債権者申立人、債務者相手方間の昭和四六年(執ハ)第一三六号事件につき、昭和五〇年三月一九日になした申立人の執行申立を却下する旨の処分行為を取消す。

理由

申立人は主文同旨の決定を求め、その理由として主張するところは、別紙異議申立理由書記載のとおりである。よって以下判断する。

一  本件記録中の、≪証拠省略≫によると、異議申立理由書一ないし三の事実が認められる。

二  異議申立理由書四1、五2について

執行吏規則における執行吏が、所属裁判所とは別個に、その責任と計算において役場を設け、自由選択制による委任により事務を取扱っていたのに対し、執行官法上の執行官は所属裁判所の組織の中に取り込まれた一の司法機関であり、事務取扱の端緒も、特定の公務員としての執行官に対する委任ではなく、抽象的な司法機関としての執行官に対する申立であり、したがって申立に係る事務、あるいはその事務の一部を構成する個々の事務を、具体的にどの執行官に担任させるかは事務分配の問題に過ぎず、全体としての事務の途中で執行官が交替しても、個々の事務を別異の執行官に担任させても、事務の本質、効果に相違を来すものではない。このことは執行官法第二条の法意に照らして明らかである。本件において小林執行官が予納命令を発したのも、本件仮処分決定執行事務の一環たる事務を分担したものであり、たとえそれが内部的に所属京都地方裁判所の定めた執行官事務分担規程に反していたとしても効力の発生を妨げられるものではなく、したがって右予納命令に応じなかった場合は、申立を却下する権限を有することはもち論である。申立人の主張は、執行官の性質の誤解に基くもので、失当である。

三  同四3、五1について

執行官法第一五条一項の、申立により取り扱う事務とは、同法二条一項の申立により取り扱う事務であり、同法一五条三項により却下できる申立は、右事務の申立であり、本件では目的不動産に対する相手方の占有を解いて執行官の保管に移す事務(執行官法第一条一号の事務)と、その保管事務(同法同条二号の事務)をいい、後者は本来の執行機関としての執行官の職務ではないが、前者と後者は不可分の関係にあるから合せて一の申立事務ということができる。執行官には目的不動産保管の責任があるから職権による保管状況点検をなす権限があり、適時にこれをなす義務があるのであるが、この点検事務は、申立に係る右仮処分決定執行事務の一環たる事務であるということができるから、執行官法第一五条一項によりこれに要する手数料、費用の予納を命じ得るものであり、予納のない場合は同条三項により、全体としての仮処分決定執行事務の申立を却下し得ることは明らかである。同法第八条は、手数料の対象となる各個の事務を規定したものであり、これにより申立にかかる事務を構成する各個の事務毎に手数料を受け得ることが明らかになることがあっても、同条の存在が右見解と矛盾することになるものではない。また予納を命じながら、結果において点検事務を実施しないで終ったときは、全事務終結の段階において予納金は清算金として返還を受け得るものであるから、明らかに点検の必要のない場合を除き点検の具体的日時を決定しない間に、その予納命令を発しても違法ではない、というべきである。申立人の主張は執行官法第一五条の解釈を誤るもので、採用できない。

(なお民事訴訟法第七五六条、第七五四条二項の規定は、執行裁判所が執行機関である事務の場合を規定するものであり、仮処分不動産の保管の如き広義の場合をも含めて、執行官が執行機関である本件事務には適用がない、と解する。)

四  同四2について

執行官法第一五条一項により執行官の発する予納命令の金額は概算額でたるのであるが、その不払により執行官は申立を却下できるものであるから、首肯し得る根拠のある相当な金額でなければならず、いやしくも既払であったり、明らかに不必要な手数料等の予納を命ずることがあってはならない。したがって予納義務者である申立人より予納命令金額の内訳を明らかにするよう求められた場合はこれを表示すべきであり、発令後に右金額中不必要な金額があることを発見したときは、先の予納命令を取消し、新たに正当な金額の予納を命ずるべきである。しかるに小林執行官の発した本件予納命令の金額五、〇〇〇円中には、昭和四六年六月八日沢井執行官により執行ずみの事務であって、しかも同年同月一一日申立人により追納ずみの手数料等金一、六八一円が含まれており、申立人代理人が小林執行官に対し質疑した結果この事実を知り、昭和五〇年三月一九日右事実を述べて本件予納命令の撤回を求めたのに、同執行官はこれを顧慮することなく、同日不予納を理由に本件申立を却下したものであるから、同執行官のこの処分は違法であって取消しを免れないというべきで、本件異議申立はこの点において理由がある。

五  よって主文のとおり決定する。

(裁判官 野田榮一)

〈以下省略〉

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